Prologueゴォン、ゴォン、ゴォン・・・・・・荘厳なる鐘の音が廃墟の街に響き、灰色の空へと吸い込まれる。 この街を支配するは、鐘の音。 この舞台で踊るは、澄み渡る剣戟の響き。 誰もいない廃墟の街。 その中心に向かって石畳の道は伸びていた。 カッ、カッ、カ・・・・・・ 響き渡る鐘の音に、響くはずの無い靴音が混じる。 ただひたすらに、歩く。 ゴォン・・・・・・ 鐘の音が鳴り終わりしその時。 カッ・・・・・・・・・ 街の中心、その広場で。 二人のヒカリが舞っていた。 さながらそれは、黒き太陽と白き月。 電光の如き速度で互いの得物を打ち合い、間合いを取り、交わる。 その動きは単純かつ地味。 されどそれは、いと美しき星々の乱舞。 ヒカリとヒカリが交わる。 弾き返し、引き合い、また弾ける。 絶え間なく続く剣戟の音は、これが血を血で洗う戦いということを忘れさせるような・・・ そんな、神聖性があった。 どれくらいの時が経ったであろうか。 気がつけば目の前には月があった。 白く、白く、どんなものよりも白く。 高く、高く、人の身では到達できぬ高さに。 それは言う。 「汝、封印の中で何を見る?」 それは紡ぐ。 「汝、運命に逆らわんとするか?」 それは告げる。 「ならば少年。その時や、今こそ・・・。」 白き月が。 白き、・・・俺が。 暖かく、見守るように・・・・・・嗤った。 「起きろ・・・起きろ・・・」 ・・・んぁ? 奇妙な感覚で意識が浮上する。 身体がそう、左右に動いている感じである。 ・・・俺のベッドにはそんな特殊な機能は無かったはずなのだが。 しかもアランのボイス付きである。 少なくとも、時刻すら設定されていない状態で身体を揺さぶり起こす寝床なんてものがあれば、お目にかかりたいものだ。 おもわず、 「・・・最近のベッドはハイクオリティだなぁ・・・」 「朝から愉快なボケかましてんじゃねぇ!」 ダンの声。 ドゴッ。 「グ、グハッ!?」 鳩尾に一撃。 まさか、急所を正確に攻撃する機能までついているとは・・・ッ! すげぇよ・・・すげぇよ最近の寝床! 「はいはーい、同じネタいつまでも引きずってないで早く起きようねー。」 明るい声とは裏腹な、クレアの強力なアイアンクローが俺を襲う! 「ぬおおっ!」 上半身をひねってそれを回避。 直後身体をガバチョと起こし、周囲を見渡す。 「・・・やっと起きたのね。」 ウェンリイの呆れ返った声。 視界には、朝の光に包まれた、俺の友人達が立っていた。 さて・・・、ではそろそろお決まりの自己紹介と行こうか。 俺の名前はアルウェン=アームシュライト。 年齢は17、趣味はゲーム。 それ以外は特に変わった特徴の無い普通の少年だ。 ・・・いや、武術と魔術が行使できるという大きな違いがあったか。 では自己紹介終わり。 時代背景を説明していこう。 時は22世紀、100年前よりかは多少文明の発達した時代である。 どうも過去の人間というのは未来に多大な妄想を抱いていたようだが・・・ 残念ながら、感情を持つ真空管少年ロボットやら、青狸の見かけをしていながらサクっと世界の覇者になれるようなヤツは存在しない。 しかし、過去の人間が、それより過去に存在していたと疑わなかった技術ならある。 それが、魔術だ。 魔術とは如何に? それはすなわち、体内における生命エネルギーを収束、構成し、様々な現象を起こす技術のことである。 どの世界にも異能というものは存在する。 その異能力者というのは、それすなわち生命エネルギーの豊富であった者とも置き換えられる。 生命エネルギーというのは・・・実は俺は授業を詳しく聞いていなかったのだが・・・ようするに人間には少なからずそういったモノがあるらしい。 豊富であればあるほど無意識下での魔術行使が可能となり、さらに強運、思考力、行動力・・・のステータスが上がっていく。 ・・・と、ゲーム的に解釈すればこうなのだが。 難しい話は俺には理解できん。 さて・・・生命エネルギーとやらには、個人の持つ属性というのが加わる。 属性というのは・・・おおまかに分類して、「炎・氷・雷・風・光・闇・全」だ。 ・・・それは次章あたりで説明できるかと思われるが・・・ 大概、属性というのは性格に順ずるものが多い。 なんとなく、だが分かるだろう。 で、だ。 俺は17歳、一応ガッコに通っている訳だが・・・ そのガッコというのは、魔術と武術を鍛え上げ、兵力にしようという、言うなれば兵隊養成学校だ。 これまで、戦車学校やら指揮官学校なんてものはあったが、魔術を養成する学校というのは存在しなかった・・・まぁそれは、魔術というのが比較的新しい技術だったからなのだが。 魔術というのは正に、未開拓の分野なのだ。 いや、魔術自体の研究はかなり昔から成されてきた。 だが、それは未だ一部の人間にしか理解できないような部類であり、教育が施せるようなレベルではなかったのだ。 従って、俺達は17にして、6年制の学校の最高学年ということになる。 ・・・実際は2年生なのだが。 学校の名称は、『学園』。 正式名称『極東地域政府陸軍直属特殊戦闘員養成施設』。 近隣の住民にも、その実体は明かされることは少ない。 いまだ開発途中の軍事機密、といったところだろうか? 故に、魔術の行使というのは、学園外では厳しく禁止されている。 ・・・大体の説明を終えただろうか? では、何故彼ら・・・俺の友人達が、安らかなる俺の眠りを妨げるのかの理由を説明しよう。 春うららかなる日差し。 春眠暁を覚えずとはよく言ったものだが・・・ 春といえばなんの季節だろうか? そう、入学式、だ。 そして、この学校というのはまさしく、小さな小隊、中隊のようなものである。 となれば、だ。 軍隊というのはどこまでいっても軍隊。 新入りの士気を高め、学習成果を高めようとするのは当然のことだろう。 士気を高めるにはどうすればいいのか? ・信頼できる上官の、戦争前のアツい演説 ・戦闘における優勢時 ・勝利すれば勲章授与など褒美が約束されている戦闘 そして、 ・華麗なる技、ドデカい力を見せられたとき だ。 俺達は要するに、士気を上げる為のエサ、ってわけだが・・・ 不運にも選ばれたのは俺だった。 もちろん、相手がいないと務まらない。 で、これまた不運にも選ばれたのが俺の友人の一人、アラン=ウィンガルズってわけだ。 しかし、だ。 ここで疑問が生じるだろう。 俺もアランも武器を持ち、魔術を行使する。 それが生身でやりあったらどうなるだろうか? 最悪、死体は一つ二つじゃ足りないだろう。 そこで、だ。 ATRというものがある。 ATR・・・Army Training Roomの略であるが、その機械はその名の通り、軍隊のトレーニング用に作られた機械である。 カプセルに入り、機械を起動すると、その人間、装備品もろもろが数値となり、データ化される。 そのデータを、ヴァーチャル空間上に構成し、さらにそれを脳にリンクするというモノだ。 その中なら、例え実弾に撃たれても死ぬのはデータ。 個人にはなんら影響は無い。 ・・・ただ、そこは軍。 被弾、被ダメージをすると、多少なりとも脳に痛覚としてそれが伝わる、という仕様にされている。 そうしないと効果が無い、のだとか。 俺達はそこで戦わせられる。 ちなみにだが、その中の様子というのはモニターに映すことができるという。 ・・・見ている側はリアルなアクションモノかもしれないが。 やっている側はかなり複雑な気分だ。 理由も無いのに友人とは争いたくない。 ・・・こんなところか。 では、ようこそ。 奇妙な惨劇と日常が織り成す、 並行世界へ・・・。 単語説明へぶっ飛ぶ |